福島市飯野町に、「UFOふれあい館」なるものがあると聞きつけた我々は現地へ飛んだ。
こんなロマンあふれる名前の施設、行かないでいられるものか。
福島の友人に聞いても何もないよ〜と言うが、彼らはこの事実をひた隠しにしているに違いない。
東北で最もUFOの目撃情報が挙がっているのが、ここ、福島市飯野町なのだ。ちなみに同施設の資料によると、青森市でもUFOが目撃されている。
施設の敷地入り口には、自然公園か何かにカモフラージュするかのように、のんびりとした看板。
おそらく私にしか見えていないが、あの有名な宇宙人・グレイがこちらの様子を監視しているのである。
すでに彼らのエリア内である。
用心して進まななければならない。
車を降り、いざ潜入。
「UFO道」なる散策路が伸びている。
UFO道…ゆーふぉーどう…ゆうほ…
遊歩道…!くぁ〜!
神社がある、もともと神聖な土地なのだろう。
駐車場付近からは謎の音楽が爆音で流れていた。
大きなスピーカーで70年代ロックミュージックを流している。
これでUFOを呼ぼうとでもいうのか。
チラシによると、レコードを持ち寄り音楽を掛ける…ふむ、お盆のイベントにしては渋すぎないか?
どんな意図が…
レコード = 円盤 = U.F.Oか!
暗喩が過ぎる、翌日青森に戻る途中で気付いた。
UFOふれあい館は時代の香りを感じるが、おそらくこれもカモフラージュ。
立体映像か何かで誤魔化しているのだ、その証拠に、建物の輪郭はUFOそのものである。
入り口には大量のムーが並んでいる。
なるほど、ここはUFO愛好家のメッカなのだ。
芸能人も訪れている、いや、おそらくUFOに拉致され、口止めの約束としてサインさせられたのだろう。
宇宙海賊ゴー☆ジャス氏以外は。
受け付けには、UFOコケシまで飾られている。
長い間守られてきた伝統工芸でさえ、すでに侵略が完了しているのだという、彼らのメッセージか。
恐ろしい。
入館料はたったの400円、しかも入浴料込。
…入浴料?
この安さも怪しい、無料だと、疑う大人もいるから、適度な金額で開かれた施設を装い入りやすくしているのだ。
順路にならって左へ…
ミステリーゾーン。
暗幕をくぐるとそこは宇宙。
素晴らしい展示。
謎の音とともに光る宇宙人。
彫刻というのは、歴史ある芸術だ。
芸術が興ったはるか昔から、モデルを目の前に、またはデッサンして作るものであるから、作者は恐らく、本物を見ている。
我々は入館後たった数メートルで、えもいわれぬ高揚感に包まれていた。
テレビデオのようなものまで!
宇宙から持ち込まれた技術だったのか!
ミステリーゾーンを抜けると、古今東西の資料が展示されている。
このUFOは、回転しながら宙に浮く!
いにしえからの目撃情報が並ぶ。
やはり、有名な「虚舟(うつろぶね)」も、UFOであったと考えて間違いはないだろう。
はるか昔から、彼らはこの国を見てきたのだ。
ロズウェル事件、キャトルミューティレーションなどのパネルも。
なんと、CIAの極秘文書まで!
たった400円で、我々はその身をCIAに追われることになるかもしれない。もう日常には戻れず、愛する家族にも真実は話せない……。
いずれ追い詰められたとき頼れる人間はおらず、宇宙人にすがるしかなくなる。なんと恐ろしい策略!
我々は既に彼らの手中である。
一口に宇宙人と言っても、さまざまな種族がいるようだ。
最奥には、謎のシアター。
人間の姿を借りたスタッフが、案内してくれる。
なぜ人間ではないか、それは、「NO UFO, NO LIFE」と書かれたTシャツを着ているからだ。
考えてみて欲しい。
「UFOがなければ生きていけない」のだ。
普通の人間は、UFOなどなくても生きていける。それを宣言しているのだから人ならざる者としか思えない。
彼から謎のメガネを渡され、シアターに通される。
我々は観念した。
きっとここを出る頃には洗脳が完了しているだろう。
さようなら、平穏な人生。
さようなら、愛しい地球。
メガネをかけて、席に座る。
なんと、映像が飛び出して見えるではないか!
これも彼らが持つ先進科学のなせる技か。
内容は、この町がいかにUFOにとって訪れやすいかを示唆するもの。この一帯は、まるで誘導灯のように謎の巨石や古墳が並んでいることが分かった。
UFOは来るべくしてこの地に来ているのだ。
この地域の住民はそれを知っていて、やはり外部にこの事実をひた隠しにしてきたのだろう。
それを見せられたということは…。
付近でのUFO雲などの写真。最近のものもある。
図書の棚には、UFOに関する書籍が、なんと著者ごとに分類されている。もちろん、矢追純一氏のコーナーも。
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展示コーナーを抜けると、なぜか目の前に階段があった。
出口ではなかったのか。
我々はずんずん登る。
そう、我々にはもう恐怖という感覚はないのだ。
階段を登りきると、お掃除のおばちゃんの姿をした生物に出会った。
なんと、あいさつをしてくれるではないか!
なるほど、我々はそちら側の人間として受け入れられたようだ。
そして、驚くことに、男湯、女湯、と書かれたのれんが下がっている。
展望風呂。
きっとこれが最後の仕上げなのだろう。
我々はわずかに残る自我を頼りに、残念ながら入浴を断念した。
利用者がいなかったので、風呂の中を覗いてみた。
なかなか良さそうである。次回は入りたい。
隣には「宇宙」と書かれた大広間があり、自由に休憩して良いとのこと。
何という太っ腹。
これも、受け入れられた者の特権なのだろう。
ここに集まり夜な夜な会合を開いているのかもしれない。
素晴らしい眺望である。
彼らはこんな風に下界を眺めているのだな。
我々は、満ち足りた気持ちでいっぱいだった。
しかし、もう一つ謎の施設を発見した!
物産館、と書かれていた。
なるほど、我々は下界に戻って素知らぬ顔で家族に会わなければならない。まるで普通の観光だという風に土産のひとつもなければ怪しまれてしまう。そのための施設なのだろう、食堂まで完備している徹底ぶりだ。
中には、宇宙食や限定グッズが並ぶ。
そして地元の方々の民芸品も。
手編みの宇宙人!
私は、オリジナル温泉タオルと宇宙羊羹を購入した。
あの、春が来る度にパン祭りという不可思議な事件を起こすことで知られる「ヤマザキ」が、宇宙羊羹を作っているのだ。NASA認定である。
景色もかなりいい。
レジに行くと、すっかり認められたのか、店員の姿をした生物に話しかけられた。
「野球好き?さっきね、甲子園の福島代表が負けちゃったの……」
なんと、高校野球にまで彼らの手が!
彼らの肩入れする福島代表が負けたということは、彼らより強い強豪校は全て宇宙人の可能性がある。
この日本は、多くの宇宙人が集まって成り立っているのだ。
我々は、施設に別れを告げ、おもむろに車で道を下ったが、ふと、生存証明のため入り口の看板で写真を撮った。
来たときに監視していた宇宙人・グレイは、相変わらず我々を見ていたが、
口元が微笑んでいるように見えた。
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注:CIAに狙われる可能性があるため顔にモザイクを入れています。
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